ミトコンドリア治療領域

ミトコンドリアは遺伝情報を有する唯一の小器官で、エネルギー産生だけではなく、細胞内免疫・Ca動態・細胞死・ステロイドホルモン生合成・熱産生を司っており、老化のさまざまなプロセスにも関わっています。ミトコンドリアゲノムの変異はミトコンドリア病を引き起こし、心不全や神経変性疾患などに大きく関わっていますが、核ゲノムとは異なり直接介入することが極めて難しい対象でした。このため、ミトコンドリア病の根治療法は、近年まで糸口も見出せない状態でした。

ミトコンドリア病のキャリアの母親の卵細胞における第三者のミトコンドリアゲノムを用いた置換は、ミトコンドリア病予防のために不妊治療のプロセスを利用して実施され、2017年に報告されました。一方、体細胞におけるミトコンドリアゲノムを置換する方法は存在しませんでした。我々は、既存のミトコンドリアゲノムの大部分を削減し、エネルギー枯渇を一時的に誘発することで、細胞の貪食能を亢進させて、効率良く外来のミトコンドリアを取り込ませることに成功しました(図1)。この方法は、外来ミトコンドリアゲノムの付加という程度を遥かに凌ぎ、内在ミトコンドリアゲノムを駆逐して、完全に置換することを可能としました(図2)。この技術をミトコンドリアゲノム置換法と名付け、アメリカにおいてミトコンドリア病治療の臨床試験を行うためのバイオ・ベンチャーを設立しました。現在、基礎研究者・臨床医・投資家など多くの方々の協力もとに臨床開発を行なっています。

ミトコンドリアゲノム変異の修正は、心不全や神経変性疾患など様々な疾患や老化そのものへの新しい戦略になる可能性を秘めており、今後は、多くの領域でプラットホーム技術として活用されるよう共同研究を進めていきたいと思っています。

図1

図2

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