血管老化領域

世界中の先進国では人口の高齢化が進んでいますが、我が国の高齢化率は世界的にも群を抜いて高く、既に超高齢化社会を迎えています。この超高齢化社会を健全に維持していくためには、加齢に伴う病気の発症を予防して高齢者の社会参加・貢献を進める必要があります。一方、我が国では平均寿命と健康寿命の間に約10年もの開きがあり、その差が一向に縮まる気配がありません。これは多くの日本人が晩年の10年間を不健康な状態で過ごしていることを意味しています。

血管は全身を隈なく巡るネットワークを形成し、全ての臓器に存在する人体最大・最長の器官です。また血管は血液や栄養分を運搬する経路として機能するだけでなく、様々な臓器固有の細胞と協調して臓器の機能維持に貢献しています。「人は血管とともに老いる」と言われるように、血管の老化が人の老化に重大な影響を及ぼすと考えられてきましたが、その因果関係について明確に示した報告はこれまでほとんどありませんでした。私達は全ての血管の内層を覆い、血管機能を制御する血管内皮細胞の老化に注目し、血管内皮細胞の老化が臓器や個体の老化に与える影響について研究しています。老化研究は高齢の実験動物を用いて行うことが多いのですが、高齢動物では様々な種類の細胞が老化してしまっているため、血管内皮細胞老化の影響だけを選別して解析することができません。そこで私達は血管内皮細胞だけが特異的に老化する遺伝子改変マウスを作出し、その解析を進めています。最近の成果では、血管内皮細胞が老化すると様々な有害物質を合成・分泌して脂肪細胞の早期老化・機能障害を引き起こし、その結果、糖尿病になりやすくなることを明らかとしました。糖尿病の他に老化によって発症しやすい心不全や動脈硬化、肺疾患、サルコペニアなどについても血管内皮細胞老化の影響について解析を進めています。これら研究成果が老化に伴う様々な疾患の予防法・治療法の開発に繋がり、健康寿命の延伸に役立つことを夢見て研究を行なっています。
 


 

加えて私達は血管内皮細胞の老化と新型コロナウィルス感染症の関連についても研究を行なっています。新型コロナウィルス感染症は発見から瞬く間に世界中に拡散・拡大し、非常に多くの感染者・犠牲者を出しました。ワクチンによって感染や重症化が予防できるようになった現在でも感染の制御には至らない状況が続いています。新型コロナウィルス感染症の特徴は高齢者における極めて高い重症化率・致死率です。私達は血管内皮細胞の老化が高齢者における新型コロナウィルス感染症の重症化に関わっているのではないかと考え、研究を進めています。これまでの研究成果から、血管内皮細胞が老化すると新型コロナウィルスにより感染しやすくなることやウィルス感染の悪影響をより強く受けることがわかってきました。老化血管内皮細胞への感染とその結果引き起こされる内皮細胞の機能障害が高齢者において新型コロナウィルス感染症が重症化する要因の一つであると考えており、今後も研究を進めていきます。
 

 

PageTop