不整脈領域

患者様へ 最近の不整脈診療の進歩

狭心症や心筋梗塞のような冠動脈の治療の進歩と同様に、不整脈診療もこの10年くらいで革新的な進歩を遂げました。頻拍性不整脈のかなり多くがカテーテルアブレーションで治療することができるようになり、特に心房細動に対するカテーテル治療については3Dマッピングや、カテーテルの進歩に伴い成績が著明に向上してきました。持続性心房細動や心不全を伴う心房細動患者に対してのアブレーション治療も盛んにおこなわれるようになってきました。また、後述するクライオアブレーションを行うことにより、短時間、侵襲の低い治療が実施できるようになってきました。
 一方で植え込みデバイスの進歩も著明なものがあります。植え込み型除細動器 (ICD)が1997年より保険適応となり突然死の予防として用いられるようになり、2004年から両心室ペースメーカーも心不全治療の大きな手段の一つとして臨床応用されています。最近では、不整脈イベントの検出のための小さい記録装置の植え込み(植え込み型ループレコーダ)、カテーテル的に右心室に植え込みを行うリードのないペースメーカ(リードレスペースメーカ)も行われています。
 当院でも、上記のようなアブレーションやデバイス植え込みを実施していて、京都府内を始めとした関連の病院からも広く患者さんの紹介をうけております。COVID19感染の関連で入院制限されていた状況ではありましたが、2021年度にはアブレーション約170例、植え込み新規約90例、交換約40例、リード抜去手術も約10例行っており、特に心房細動アブレーションの症例が増えております。
 我々が大切に考えていることは、患者さん個々の状況を丁寧に把握し、虚血、エコー、リハビリ、心臓血管外科などといった幅広い分野の専門家とも協議しながら時間をかけて治療方針を検討することです。そのためには説明の時間もかかりますし、人手も必要です。人的な要因に恵まれている大学病院だからこそ出来る医療があると思っています。
 また、不整脈先進医療学講座も平成30年から開設しスマートフォンアプリを用いた心房細動ヘルスケア、IoTを活用した心房細動の検出、など多くの臨床研究も行っています(https://www.kpu-m.ac.jp/doc/alliance/course/list/huseimyaku.html)
 不整脈を専門とする常勤の医師が3名週に3回外来診療をしております(月曜妹尾、火曜白石、金曜大倉)。それ以外にもデバイスクリニックを毎週月曜実施(担当は交代制)しています。
不整脈にお困りの患者様はご遠慮なく、おたずねください。

アブレーションやペースメーカ植え込みの入院について

当院では、次のように不整脈の治療入院を行っています。

① ペースメーカなどのデバイス植え込みや交換:入院は手術前日ないし当日に入院します。植え込みの場合、術後約1週間の入院で傷を確認し、植え込みしたリード線の脱落などがないかを確認して退院していただきます。手術は水曜日ないし木曜日に実施することが多いです。交換の場合月曜日に当日入院することが多く、ほとんどの場合二泊三日で水曜日に退院となります。抜糸も不要になるよう手術いたしますので後は翌週の外来で傷を確認いたします。

② アブレーションの場合:心房細動については外来で採血やエコーなどのほか、心臓のCTを撮影しております。入院は手術前日にされることが多く、胃カメラのようなものを飲んでいただいて(食道超音波検査で)血栓の有無を確認することもございます。手術は月曜、水曜、木曜に実施しており、術後2日目に退院することがほとんどです。心房細動治療の場合、2-3時間で終了することが多いですが、高周波で焼灼する場合、全身麻酔、鎮痛薬を併用して行いますので手術における苦痛はほとんど感じられないように実施が可能です。クライオアブレーションでもかるく眠っていただきながら実施しており、苦痛の除去に努めております。そのほかのアブレーション(上室性頻拍や心室頻拍など)は症例によって眠り薬の併用を検討して実施しています。

クライオアブレーションについて

 

図説:バルーン内に冷却ガスを充満させて3分間組織に密着させることでを治療をする。

当院では先述のように高周波によるカテーテルアブレーション以外にクライオアブレーションも実施しています。クライオアブレーション(バルーン型冷凍アブレーション)はは主として発作性心房細動の治療を中心に実施しています。これまで心房細動のカテーテル治療は,高周波電流により一点一点心筋焼灼を繰り返し,肺静脈の周囲を円周状に焼灼することで肺静脈からの電気刺激を遮断するように行ってきました。クライオバルーンでは,バルーン形状のカテーテルに冷気ガスを送気して約3分間肺静脈にあてることで円周状に一括で焼灼できます。これまでと異なり手技時間が大きく短縮したことと、術中の痛みもわずかで患者様の負担も軽くなっています。心房細動の再発症例もきわめて少なく、とても有効な治療法であるといえます。手術前のCTの肺静脈のかたちからクライオアブレーションに適しているかどうかを判断して高周波電流による治療を行うかどうかを決めています。

心房細動治療についてのQ and A

  • 心房細動はどんな病気ですか?
    o 年齢とともに増加してくる不整脈で動悸や息切れなどを自覚します。動悸の発作がおこる発作性心房細動ともうずっと心房細動が続いている慢性心房細動に大きく分けることができます。
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  • どんな症状がありますか?
    o 胸がドキドキして苦しく、息切れを自覚することもありますが、高齢者のかたでは無症状の場合も少なくありません。
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  • 何に注意するべきですか?
    o 先ほどの動悸の症状のほかに、脳梗塞の原因のひとつであり、発症すると大きな脳梗塞が生じることが多く重篤な麻痺を残したり命にかかわることもあります。
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  • どのように診断されますか?
    o 動悸を訴えて病院に受診し診断されることもありますし、健康診断での心電図で発見されることもあります。
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  • 治療はどのようなものがありますか?
    o 不整脈そのものへの治療と、先ほどの脳梗塞の予防に分かれます。抗不整脈を用いて不整脈の発生を抑えたり、脈拍が早くなりすぎないようにする治療を行うことのほか、前述のようなカテーテルによる治療も積極的におこなわれています。脳梗塞の予防については血をサラサラにするお薬を飲みます。
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  • アブレーション治療はどのようなものですか?
    o 事前に外来で一般的な心臓の検査とCTを撮影しておきます。入院は5日程度で胃カメラのような食道からの超音波検査を手術前日に行います。手術は局所麻酔で行い約3時間程度かかります。退院翌日から日常生活に戻れます。

 

(文責:白石)

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