心不全・心臓リハビリ領域

心不全の治療について

 心不全入院患者は全国の循環器専門医が在籍する施設における集計(JROAD)でも年間27-28万人に達し、心不全パンデミックと呼ばれるようになり医療のみならず社会的にも大きな問題となってきました。
 心不全の発症を未然に防ぐために高血圧や糖尿病などの管理のほか、心筋梗塞や心臓の弁膜症(弁が逆流したり、狭くなったり)などの評価や治療をすることは重要ですが、いったん心不全を発症された場合、ガイドラインに沿って必要なお薬を調整することや、カテーテルによる治療、外科手術による治療、ペースメーカなどの植え込み、などの手術治療、また専門の看護師、薬剤師、リハビリテーション、栄養士によるチームによる評価と指導が重要です。
 当院では心不全患者さまの治療について循環器内科、心臓血管外科とも協力して行っております。虚血性心疾患を合併していれば冠動脈治療やバイパス、弁膜症を合併していれば外科的治療やカテーテル治療、心房細動があればカテーテルアブレーション、遅い脈や心室性不整脈などがあればデバイス(ペースメーカなど)の植え込みなど必要な治療を検討するとともに、投薬の調整はもちろんのこと、前述のようにリハビリテーションのスタッフによる評価と指導、栄養士による栄養評価と指導、服薬指導などチームによる介入も行っていきます。
 また、当院と京都府立医大の関連病院では京都心不全ネットワークという取り組みを実施し、どの病院に入院しても同じような指導が受けられるようにし、また心不全を積極的にフォローアップいただいているクリニックの先生方とも協力して京都府全体の心不全患者の予後を改善しようと取り組んでいます。このホームページにも京都心不全ネットワークというボタンから入っていただきますと、患者様に配布する心不全手帳、および記録手帳がご覧いただけると思います。心不全患者様の注意するべき点や実際の血圧や体重などの測定とその判断など重要なことがわかりやすくまとめてありますので、是非ご覧ください。
 また、指導を行うスタッフの皆様に向け医療者用の指導者用手帳というものも作成しています。実際の指導に当たっての根拠や指導のポイントについてまとめておりますのでご活用いただければと思います。

心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションはもともと急性心筋梗塞の離床プログラム、運動指導から始まったが、現在は慢性心不全患者への運動療法、疾患指導、栄養指導、ASOなど下肢動脈疾患、肺高血圧症へのリハビリなど幅広く分野を広げている。

 

当院の特徴は附属病院リハビリテーション部の中に心臓リハの部門があるため、理学療法士を中心としたスタッフが運営を担ってきたことにある。もともと理学療法士としての知識と経験を心臓病を患った患者に応用し、訓練を行うことは現在の高齢化、重複障害、疾患の重症化を踏まえて大変重要なことである。当院では重症心不全に対してのカテーテル治療(TAVIやMITRACLIP)、心臓外科治療、デバイス植え込みなど、低心機能症例も多数入院されるため、循環器内科、心臓外科から重症症例もほぼ全症例が急性期から心臓リハが依頼されている。循環器内科、心臓血管外科合わせて年間に3500-4000件程度のリハビリを実施している。心臓リハビリテーション指導士も5名、心不全認定看護師1名、心不全療養指導士4名在籍し、専門的な指導訓練を行っている。

当院の心臓リハビリテーション

当院が取り組んできた特徴的なこととして①京都心不全ネットワークにおける心臓リハビリテーション:京都府立医大関連病院とも連携して心不全患者に対して統一的なリハビリテーションの評価、訓練②再生医療後の重症下肢虚血に対しての心臓リハ③デバイス(ICD/CRT/CRTD)植え込み術後の心臓リハ④豊富なTAVI患者における患者評価と術後リハビリテーション などがあげられる。

 

  1. 1. 当院の循環器内科は、慢性閉塞性動脈疾患、とくに重症虚血肢に対して骨髄単核球細胞移植による再生医療を行っており、再生医療後の症例にも運動療法を導入している。従来重症虚血肢への運動療法は虚血悪化の懸念から禁忌とされてきたが、疼痛や潰瘍による活動量の低下から廃用症候群に陥り、ADLが低下している症例が多い。そこでこのような患者には筋力トレーニングの他、装具を作成しできるだけ虚血域を免荷させた状態での歩行練習を行ってきた。現在まで特に大きな合併症や事故もなく運動療法を施行できており、ADL向上や血管新生の促進に寄与できていると考えている。また、現在より重症虚血肢に対するより適切な運動療法の立案に関するAMED研究も参加している。
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  3. 2. デバイス植え込み患者のリハビリについて当院ではこれまで詳細に検討して学会発表、雑誌、書籍などへの発表を行ってきた。代表的なものを挙げると、1、棟近麻衣ら、心不全患者に対する植込みデバイスから得られるHeart Rate Histogramの特徴.心臓リハビリテーション20:81-86,2015。2、白石裕一ら。デバイス(ICD・CRT-D)装着患者に対する心臓リハビリテーション・運動療法をどう実践するか?Heart view 2014;18:100-107。3、白石裕一、書籍 心臓リハビリテーション 心臓リハビリテーション各論 ペースメーカ、ICDまたはCRT-D装着 心臓リハビリテーション p277-286 医歯薬出版 2013.7.15 第1版などで、最近では、日本循環器学会の心臓リハビリテーションの当該分野のガイドライン執筆も担うことができた(心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版、牧田茂班長)
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  5. 3. 慢性心不全へのチーム医療:看護、薬剤、栄養、心リハ、医師、各チームの合同で指導統一した疾患指導資材を作成し関連病院で使用している。京都心不全ネットワークでパンフレットを作成しそれに準じて患者指導を行っている。年に数回のチーム医療の勉強会(研究会)を開催し知識や指導のレベルを高めること、循環器疾患の勉強会を循内スタッフを中心に院内研修会を開催している。

 

熱意あるスタッフ、関係医師の協力により、心臓リハ学会を始め多くの学会でシンポジウムなど大きな場での演題発表を継続することができている。スタッフの皆さんに感謝申し上げるとともに今後も引き続き幅広い取り組みを続けていきたいと思っている。

(文責:白石裕一 2022.12月)

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