ミトコンドリア・心筋エネルギー代謝領域

心筋エネルギー代謝研究グループ

 食生活の欧米化や高齢化社会の到来により、心不全患者は増加の一途です。心筋細胞の約半分は一度renewalされますが、同じ細胞の拍動や代謝によって、心臓は何十年も支えられています(1)。近年の薬物療法・非薬物治療めざましい進歩で、寿命や生活の質は著明に改善しましたが、一体何を解決すればさらなる新たな治療が生まれるでしょうか?

 死にかけた細胞を長持ちさせたり、新たな細胞を供給することは可能であるが、その限界を考えると、いかに心臓を酷使せず長持ちさせるかが、最重要課題です。

心臓のエネルギー代謝

 心臓は、燃料器質からエネルギー通貨であるATPを合成し全身へ血液を循環させるポンプですが、言い換えれば、化学エネルギーから拍動という動的エネルギーへのエネルギー変換臓器でもあります。生まれてから死ぬ最期の一拍まで、拍動し続けるためにエネルギー利用可能な燃料を様々な形で用いており、通常は、その7割を脂肪酸を酸化することによりエネルギーを得て、残りの3割をブドウ糖などの炭水化物によっているます(2)。しかし、急激な仕事量の増大や虚血イベントがあれば、解糖系によるエネルギー産生量を増やして対処しています。実際ヒトでもPET検査を用いると、虚血部位でも糖の取込みが、視覚的に確認でき、心筋のviabilityが評価できます。BMIPP心筋シンチグラムは、心臓における脂肪酸のα酸化を視覚化させていますが、本来のβ酸化も同部位で行われていると考えられ、脂肪酸代謝の理解に役立ちます。

心不全におけるエネルギー代謝

 様々な原因により、過剰な心負荷や不十分な血液供給のため、本来備わっている細胞の予備能力を超え、細胞間、細胞内のストレス応答システムが機能しなくなり、ついには破綻して心不全状態に陥ります。中でも細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアは、虚血や脂肪や糖の過負荷が原因で、十分なエネルギー産生をできなくなるため特に脂肪酸利用の低下が顕著となり、その結果ATPのリザーバーともいえるPCrから低下し始め、ついにはATPまで低下してしまいます(図1)。その過程で、さらに悪いことに、ミトコンドリアの酷使によって、活性酸素が過剰に産生され、細胞死を引き起こしてしまう。心筋細胞が死ぬと線維組織に置き換えられ、エネルギー産生や拍動という意味では、さらに余力がなくなってしまいます。加齢だけでも心臓は、ミトコンドリアの質を保つ機構が維持できなくなり、カテコラミンに対する反応が低下することが知られています。このような代謝調節機構は、動物実験で多く検討され、心筋内のATPとPCr(ホスホクレアチン)が、恒常的に保たれる仕組みが成り立っています。

 ミトコンドリアの主要な機能は、細胞内エネルギーの産生です。TCAサイクルにより基質を代謝し、電子伝達系を介してATPを合成する。他にも脂質、ステロイド合成・代謝、アポトーシスやカルシウム調節等 エネルギー・代謝・細胞応答など多様な細胞機能応答に関与しています。近年ミトコンドリアの機能維持が、ミトコンドリア内外の様々なシステムによりダイナミックに制御されることがわかりつつあり、心臓を長持ちさせることが、そしてまた、最近、幹細胞の維持、分化、組織での応答ののためにこの機能維持の必要性が望まれています。

参考文献

  1. Bergmann O et al. Evidence for cardiomyocyte renewal in humans. Science 324,2009: 98-102
  2. L.H.オピー編著 岩瀬三紀・横田充弘監訳 オピーの心臓生理学 細胞から循環まで 2008年 西村書店

研究テーマ

ミトコンドリアエネルギー代謝と細胞の生死に関するメカニズムの解明と臨床応用

現在の研究

  1. 心不全・老化のメカニズムの解明とミトコンドリアの機能調節による治療開発
  2. 幹細胞のミトコンドリア機能と心筋・血管再生治療応用
  3. 肺高血圧と右心不全の進展予防のための基礎研究

増加の一途である心不全や生活習慣病を予防・治療・撲滅を目標に一緒に研究したい方を募集しています。共同研究や大学院での研究を希望される方は、お気軽に御連絡下さい。

図1:心不全進展とエネルギー状態

心不全の進展に伴い、エネルギー器質として脂肪酸の利用が減る。PCrがATPに先だって低下し、最終的にはATPも低下し機能維持が困難になってしまう。

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